私がライブに足を運ぶのは、1995年1月19日、福岡サンパレス以来。あの日、激動の渦中にあった日本で目撃したドリーム・シアターの圧倒的な演奏は、私の心に「ヘヴィ・メタルという音楽の凄み」を深く刻み込んだ。あれから実に30年。仕事や日常に追われる中で、生のライブ空間からはすっかり遠ざかっていた。
そして2026年8月29日、Zepp Fukuoka。私が再びメタルの爆音の中に身を置く日がやってきた。お目当ては、現代のヘヴィ・メタル・シーンにおいて目覚ましい活躍を続け、日本が世界に誇るヘヴィ・メタル・バンドへと駆け上がった「LOVEBITES」だ。
久々のライブ参戦、しかも30年ぶりの爆音空間。正直なところ、「果たして自分の体力が最後まで持つのだろうか……」という不安が頭をよぎっていた。アラフィフを迎えた身体に、あのヘヴィ・メタルの激しいサウンドと大歓声の熱量が耐えられるのか。会場であるZepp Fukuokaへ向かう道中、期待と同時にかすかな緊張感が胸を締め付けていた。
会場の敷地に入り、フロアを見渡すと、そこにはどこか懐かしくも親しみやすい光景が広がっていた。客層は予想通り、40代から50代を中心とした、まさに80年代〜90年代の「メタル黄金期」をリアルタイムで駆け抜けてきた世代が中心だった。思い思いのTシャツを身に纏った同世代の姿を見て、どこかホッとする自分もいたが、同時に複雑な思いも胸を抱いた。「こんなにも素晴らしい、技巧と美しさに満ちたメタル・サウンドを、ぜひ今の若い世代にもリアルタイムで聴いてほしい」と切に願わずにはいられない。ヘヴィ・メタルというジャンルが持つ永遠の輝きと熱狂を、次の世代へと受け継いでいってほしいという思いが、開演前の静かなフロアでふつふつと湧き上がってきた。
開演の時間が刻々と迫るにつれ、場内に流れるBGMの音量が徐々に上がっていく。往年の名曲たちが次々とフロアを温め、集まった観客の期待感を煽る。そして、その時はやってきた。
次々とメタルのBGMが流れる中、場内が暗転し、LOVEBITESのライブにおける“出囃子”の定番として知られる、ジューダス・プリーストの名曲「Diamonds and Rust」がより大音量で流れ出す。その瞬間、会場全体の雰囲気が一変した。観客は総立ち、拳を突き上げる。私のボルテージも一気に最高潮へと達した。30年のブランクなど、一瞬で吹き飛んでしまうほどの熱気が全身を駆け巡る。
そして、誰もが待ち望んでいたあの曲のイントロが響き渡り、ステージを覆っていた幕が一気に落ちた。
視界が開けた先に広がっていたのは、眩いライティングと純白の衣装に身を包んだ、日本が世界に誇るメタル・クイーンたちの姿だった。
その光景を目にした瞬間、鳥肌が立った。ステージ上に立つ、Asami、Miyako、Midor、Fami、Harunaの5人が放つオーラは圧倒的だった。白を基調とした洗練された衣装からは想像もつかないほど、打ち出されるサウンドは極めてヘヴィで、どこまでも重厚。ツイン・ギターの緻密でスピーディーなリフと流麗なハーモニー、地響きのように腹に響くリズム隊の重低音、そしてその激しい音の渦を軽々と突き抜けていくハイトーン・ボイス。
1曲目から容赦のないメタル・サウンドが疾走し、Zepp Fukuoka全体が揺れた。観客の歓声と拳が空を切り、会場の密度と温度が急上昇していく。
体力が持つのだろうかという開演前の懸念は、始まってしまえば完全に不要な心配だった。全身に届く重低音の振動が、身体の奥底に眠っていたメタルの血を呼び覚ます。気づけば私も、周りの観客とともに手を突き上げ、声を張り上げていた。30年前に福岡サンパレスで感じたあの衝動、音の塊に身を委ねる快感が、時を超えて鮮やかによみがえってきたのだ。
LOVEBITESの真骨頂は、そのビジュアルの美しさからは計り知れない本格的な演奏技術と、一切の妥協がないクラシック・メタルへのリスペクトにある。MiyakoとMidoriのツイン・ギター・プロダクションは圧巻の一言。超高速のオルタネイト・ピッキングから紡ぎ出されるソロの掛け合いは、まさに息をのむ精度でありながら、叙情的なメロディに満ち溢れている。Famiのスラップを交えたパワフルなベースラインと、Harunaの正確無比かつ爆発力のあるドラミングが土台をガッチリと支え、その上をAsamiの圧倒的な歌唱力が縦横無尽に駆け巡る。
曲間で見せるMCでの親しみやすい表情と、曲が始まった瞬間に見せる凄まじい眼光とパフォーマンスギャップもまた魅力的だ。世界各国の大型フェスを経験してきた彼女たちのタフネスと自信が、ステージの端々に満ちあふれていた。
中盤のバラードやクラシカルな展開を取り入れた楽曲では、ただ激しいだけではない、ドラマチックな音楽性の深さに引き込まれた。メタルというジャンルが長年培ってきた様式美を踏襲しつつ、モダンな感性でアップデートされた彼女たちの楽曲は、かつてNWOBHMやスラッシュ・メタルに熱狂した我々の世代の心にも深く刺さる。だからこそ、この素晴らしい空間に10代や20代の若い世代がもっと多く居合わせてくれればという思いが、再び強く頭をよぎった。この本物の演奏と熱量を生で体験すれば、間違いなくメタルの虜になるはずだ。
ライブが終盤へと向かうにつれ、ステージとフロアの体感温度は極限に達していった。疾走感あふれる代表曲が怒涛の勢いで畳みかけられ、シンガロングの声が会場いっぱいに響き渡る。疲れを感じるどころか、曲が進むごとにエネルギーが充填されていくような、不思議な感覚に包まれていた。
アンコールが終わり、メンバーがステージ上で感謝の言葉を述べ、笑顔で手を振って去っていくまでの約2時間。それは私にとって、単なる音楽ライブの枠を超えた、30年ぶりの情熱の再会であり、至福の刻であった。
終演後、Zepp Fukuokaを後にする観客たちの表情は、誰もが汗と満足感に満ち溢れていた。同世代のファンたちが笑顔で感想を語り合う声を聞きながら、私も心地よい疲労感と興奮の余韻に浸っていた。心配していた体力も、終わってみれば胸いっぱいの感動が勝り、むしろ身体の底から新しいパワーが湧いてくるようだった。
10代半ばで初めてLOUDNESSを肌で感じ、それから数々のライブ、1995年のドリーム・シアターを経て、2026年のLOVEBITESへ。時代は変わり、私自身も年を重ねたが、ヘヴィ・メタルという音楽が持つ熱量と、生演奏がもたらす圧倒的な感動は何一つ変わっていなかった。それどころか、LOVEBITESという最高のメタル・クイーンたちによって、日本のメタル・シーンの未来がどれほど明るいかを強く実感させられた夜となった。
素晴らしい時間を届けてくれたLOVEBITESのメンバー、そして会場を埋め尽くした熱狂的なメタル・ファンに心からの感謝を贈りたい。また必ず、この爆音の聖地へと戻ってくると心に誓いながら、私は福岡の夜風の中を歩き出した。

