ヘヴィメタル界へ鮮烈なる宣戦布告を果たしたデビュー作
2017年5月24日、日本のヘヴィメタルシーンに彗星のごとく現れ、その後のメタル史を塗り替える第一歩となったのがデビュー・ミニアルバム『THE LOVEBITES EP』である。当時、ガールズメタルバンドという枠組みはすでに一定の認知を得ていたが、LOVEBITESが掲げた音楽性はそれまでの「ガールズバンド」という先入観を根本から打ち砕くものだった。圧倒的な技術に裏打ちされたNWOBHM(New Wave of British Heavy Metal)やスラッシュメタルの伝統を継承しつつ、クラシカルで洗練された旋律を融合させたサウンドは、国内外のメタルファンに強烈な衝撃を与えた。
本作のミキシングおよびマスタリングを手掛けたのは、フィンランドの名門フィンヴォックス・スタジオ(Finnvox Studios)の名エンジニアであるミッコ・カルミラ(Mikko Karmila)とミカ・ユッシラ(Mika Jussila)だ。ナイトウィッシュやストラトヴァリウスなど数々の欧州メタル傑作を生み出してきた重鎮たちの手により、デビュー作にして世界標準の重厚かつクリアなサウンドプロダクションが確立されている。白を基調としたドレスを纏った美しきビジュアルとは裏腹に、音の核にあるのは徹頭徹尾「本物のヘヴィメタル」であるという強い意思表示が込められた作品だ。
ここでは、LOVEBITESの輝かしい伝説の幕開けとなった記念すべき本作の全4曲を、楽曲のクレジット情報や音楽的特徴、そして個人的な感情を交えて1曲ずつ徹底的に解説していく。
Don’t Bite The Dust
作詞:miho / 作曲:miho, Mao / 編曲:LOVEBITES, Mao
記念すべきデビューEPのオープニングを飾る「Don’t Bite The Dust」は、バンドのアイデンティティと疾走感が凝縮された本格的な正統派派生型のヘヴィメタルチューンだ。リーダー兼ベーシストであったmihoと、サポートコンポーザーであるMaoの共作によって生み出されたこの楽曲は、ツインギターによる流麗なハーモニーから始まり、聴き手を一瞬でLOVEBITESの世界観へと引きずり込む。
冒頭のツインリフを聴いた瞬間に走る戦慄は、今でも鮮明に覚えている。正統派NWOBHMの流れを汲むアイアン・メイデン的なツインギターの美しさと、現代的なスピード感が絶妙にブレンドされている。asamiのボーカルが響き渡った瞬間、それまでの日本のガールズバンドの域を完全に超越していることが証明される。ソウルフルでありながらハイトーンまで破綻なく伸びる彼女の歌声は、正統派メタルサウンドに対して完璧なフィッティングを見せる。
ソロパートにおけるmidoriとmiyako(当時はmi-ya表記)のギターバトルも大きな聴き所だ。テクニカルかつアグレッシブに攻め立てるmidoriのフレーズと、クラシカルで繊細なメロディを紡ぐmiyakoのコントラストが見事な対比を描いている。ドラムのharunaが刻むタイトでブレのないツーバス連打と、mihoの太く伸びやかなベースラインがガッチリとボトムを支えており、バンドとしての演奏能力の高さがデビュー音源の時点で完璧に仕上がっていることに驚かされる。まさに「土を噛むな=屈するな」というタイトルの通り、メタルシーンで生き残る覚悟を感じさせる名曲だ。
The Apocalypse
作詞:miho / 作曲:miho, Mao / 編曲:LOVEBITES, Mao
2曲目に配置された「The Apocalypse」は、スラッシュメタルの攻撃性とメロディック・スピード・メタルの叙情性が完璧に融合したハイテンポ・ナンバーだ。「Don’t Bite The Dust」で提示されたキャッチーな疾走感から一変、より重厚でスリリングな展開が待ち受けている。
楽曲を支配するのは、攻撃的なギターリフと過激なドラミングだ。harunaのブラストビート気味の連打と疾走するビートが曲全体に強烈な推進力を与えており、イントロのリフが鳴り響いた瞬間に胸が高鳴るのを抑えられない。asamiの歌唱も前曲よりさらにダークで力強く、ハイトーンシャウトの切れ味は圧巻の一言に尽きる。ヘヴィなリフの裏で鳴る繊細なアコースティックギターのニュアンスや、ドラマチックな転調が見事なアクセントになっている。
個人的に非常に好みであるポイントは、中間部で見せるクラシカルなギターアプローチとスリリングな展開だ。単なるファストナンバーに終わらず、旋律の美しさと展開美を重んじるLOVEBITESの美学が早くも確立されている。後に1stフルアルバム『AWAKENING FROM ABYSS』において「The Apocalypse (Awakened Version)」として再録されることになるが、このEPバージョンが持つ初期衝動的な生々しさと尖ったエナジーは、本作ならではの唯一無二の魅力を放っている。
Scream For Me
作詞:Dr. U / 作曲:miyako / 編曲:LOVEBITES, miyako
3曲目の「Scream For Me」は、後にバンドのメインコンポーザーとして数々の名曲を世に送り出すことになるmiyakoが単独で作詞(Dr. U名義)と作曲を手掛けた楽曲だ。キャッチーでありながらグラマラス、かつスリージーなアメカジ・ハードロックや80年代LAメタルを思わせる要素が盛り込まれた意欲作である。
前の2曲がヨーロピアンな正統派メタル・スラッシュメタル寄りだったのに対し、この「Scream For Me」はグルーヴィーで横ノリのノリの良さが際立っている。ザクザクとしたギターリフと躍動するリズムセクションが心地よく、ライブでの観客との掛け合いを明確に意識した仕上がりだ。タイトル通り「私に向かって叫べ」と迫るサフのキャッチーさは非常に強力で、一度聴いたら耳から離れない中毒性を持っている。
asamiのボーカルのアプローチも実に多彩で、ブルージーなニュアンスを含んだ力強いミドルレンジから、サビでの伸びやかなシャウトまで、彼女のシンガーとしての引き出しの多さを痛感させられる。miyakoのソングライティングにおける「メロディの引きの強さ」と「洋楽的ロックのダイナミズム」が遺憾なく発揮されており、バンドの音楽性の幅広さを印象付ける上で極めて重要な役割を果たしている楽曲だ。
Bravehearted
作詞:haruna / 作曲:haruna / 編曲:mi-ya, LOVEBITES
デビューEPのラストを締めくくるのは、ドラマーのharunaが作詞・作曲を手掛けた「Bravehearted」だ。このEPの中では唯一、全編日本語詞(※のちにフルアルバムで英語化される)で歌われており、J-ROCK/J-METAL的なドラマチックさとメロディック・スピードメタルの疾走感が融合した屈指のエモーショナルな名曲となっている。
日本語詞で歌われるメロディラインの美しさがとにかく胸に刺さる。harunaの生み出す旋律は日本人にとって非常に親しみやすく、涙腺を刺激するような哀愁に満ちあふれている。それでいてバックの演奏は妥協のない超高速ツーバスドラムと激しいツインギターが吹き荒れており、叙情的なメロディとのギャップが壮絶なエモーションを生み出している。日本語の響きを活かしたasamiのエモーショナルな歌唱は、聴く者の心を揺さぶらずにはいられない。
ラストにこの楽曲を持ってくる曲順の美しさにも感銘を受ける。疾走感と重厚感、そして最後にはドラマチックな感動を残して駆け抜ける本作の構成は、ミニアルバムとしての完成度が極めて高いことを証明している。後に『AWAKENING FROM ABYSS』にて全編英語詞の「Bravehearted (Awakened Version)」として再構成されるが、このデビューEPに収録された日本語バージョンが持つ特有のエモさと哀愁は、初期LOVEBITESを語る上で絶対に外せない貴重なテイクである。
『THE LOVEBITES EP』総評
全4曲というコンパクトなサイズ感でありながら、『THE LOVEBITES EP』が与えた衝撃と残した爪痕はあまりにも大きかった。正統派メタル、スラッシュ、HR/HM、メロディック・スピードメタルという多様なエレメントを高度に融合させ、海外クオリティのミックスによって仕上げられた本作は、単なる「期待の新人の名刺代わり」を超えた完全なる傑作である。このたった4曲でLOVEBITESは日本のヘヴィメタル界の頂点を目指す準備が完全に整っていることを証明し、世界へと羽ばたく壮大なストーリーの第一歩を力強く踏み出したのだった。

